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リナポタ

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人の死とは、こんなに呆気ないものだっただろうか。アイリーンは横たわる夫を見て顔を覆った。人の死とは、こんなにも呆気ないのか。
彼女はプリンス家の箱入り娘だった。箱入り娘とはいえ、休暇のたびにマグル界に遊びに行っていたのだからそこまで自由が制限されていたわけでもないが。
そんなアイリーンは、マグルの男と駆け落ちした。誰よりも愛する夫との生活は、幸せだった。影を落としたのは息子が魔力を発現させたときで。
ーーートビアス・スネイプは、記憶は消されども、捨てられども、ブラック嫡流のスクイブであったから。ブラックは、生まれた瞬間に魔力を発現させるから。生まれた息子に魔力発現が見られないことにアイリーンがどれだけ安堵したことだろう。しかし運命とは残酷で、アイリーンとトビアスの最愛だったはずの息子は魔力を発現させ、家族には溝ができた。
アイリーンが選んだのは、息子ではなく夫だった。悔やんでも悔やみきれないだろう、なぜ息子を守れなかったのか。アイリーンにはそれができるだけの力があったのに。学年次席の成績表なんて、何にも意味がなかった。アイリーンは家庭一つすらも守れなかったのだから。
「……トビアス。」
彼はアイリーンよりも年下のはずだった。そして、まだ働き盛りのはずだった。どうして彼が先に。そこまで考えたところで思いつく。
息子の魔力発現は、きっと己の想像以上にトビアスを憔悴させていた。アイリーンの我儘は夫と息子を苦しめるだけに終わったのだ。
「……っ! 」
やり直したい。傲慢にも、アイリーンはそう願った。やり直したい、やり直したいのだ。でも、やり直すことなんてできるはずもない。時を遡ることは神秘部の管轄で、魔法省の深いところに秘されている。
でも、それでも。やり直しを、償いをーーーそう思った瞬間、アイリーンの視界は暗転した。



「ーーーリー、リリー、可愛い女の子だよ! 」
遠くで誰かが叫んでいる。ふわり、とアイリーンの意識が覚醒した。ぼんやりと輪郭が見えるが、何がなにかはわからない。
「……ふっ、ふぅええぇあぁ~! 」
口から漏れた言葉にアイリーンは呆然とすることしかできなかった。まるっきり赤子の泣き声だ。
「ふふっ、こんにちは、アイリーン。あなたのママよ。」
翡翠の瞳に鮮やかな赤毛をした女性がアイリーンを抱き上げ、柔らかく微笑んだ。あなたのママ、という言葉にアイリーンの頭が告げる。この人はアイリーン・プリンスの母ではない。つまり、所謂、逆行とかいうものをしてしまったのだと。
アイリーンとしては、非常に状況を受け入れがたかった。これでも中身は50目前のいい大人なのである。今から赤ちゃん扱いなど耐えられるはずもない。
アイリーンは、とりあえず現実逃避がてら気絶でもすることにしたのだった。
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